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コミュ障ですが新刊出します

2019年10月28日 13:13



KADAKAWAより新刊『目を見て話せない』が発売です。
コミュ障の学生藤村君が、コミュ障故に聞き込みができなかったり現場検証ができなかったりしなから大学で起こる「事件」を解決する連作短編集です。
「事件」といっても「この傘誰の?」とか「こいつに酒飲ませたの誰?」といった日常の謎です。日常の謎、久しぶり。
ネタバレ防止のため登場人物紹介ができないのが辛い!
ですが、コミュ障の生態が詳しく書かれているので、現役コミュ障の方はもちろん、その生態を知りたい非コミュ障の方もおすすめです。
ちなみに私もコミュ障ですが、あまりによく喋るため誰も信じてくれません。

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文庫版が出ているのです

2019年10月08日 12:03



6月からずっと膝の上に大量の子猫が乗っていたせいで動けず、お知らせが大変遅くなってしまいました。
光文社文庫より
『100億人のヨリコさん』発売中です。
変人ばかり集まる貧乏学生寮の面々が世界を救うという、ジャンル分け不能のとんでもないストーリーです。
幽霊が出てきますがドタバタでもファンタジーでもなく、きちんと現実的に解決する冒険譚です。
なんでこんな話ができたのか、著者にもよく分かりません。
出てくるのはこういう人たちです。


小磯(こいそ)
教育学部。貧困のため貧乏学生が住む伝説の寮「富穰寮(ふじょうりょう)」にやってくる。
バイトをかけもちする苦学生で常識人。

先輩(せんぱい)
学部不明。富穰寮内では単に「先輩」と呼ばれている、着流し姿のよく分からない人。
学生ではあるらしいが、何年生なのかも分からない。
雑誌のクロスワードパズルで懸賞をもらったり、富穰寮裏の池で釣った魚を燻製にして売り、現金収入を得たりして生活している。

汪(わん)
学部不明。中国系の在日二世。

ネットワーク及びソフトウェア関連の技術に長け、アフィリエイトやFXで稼いでいる寮唯一の金持ち。
車椅子利用者だが上半身はムキムキで棒術を使い、寮では一番腕っぷしが強い。

マフトンジ・フェルナン・グバグイディ
工学部。ベナン共和国からの留学生でロリコンのオタク。会話にベナンの公用語であるフランス語が混ざる。
汪とは対照的にハードウェアの専門家で怪しげな道具を作る。
祖父が呪術医であり、ブードゥーのお守りを持っている。

儀間(ぎま)
農学部。常に白衣でキノコ栽培や合成肥料の「フィールドワーク」と称し、怪しげなものを持ち歩いている。
富穰寮の畑の管理人。農学部のゼミで試験中の肥料を用いて不自然に成長の早い野菜を作り、寮生の食を支えている。

若月奈緒(わかつき なお)
主婦。近所のスーパーで働きつつ、娘とともに富穰寮で暮らしている。
寮内ではおそらく最年長であるが、適当な性格かつ飲んだくれであり、あまり大人らしくない。
いろいろと非常時の経験があるらしく、ストーカー対策や空き巣のやり方などに詳しい。

若月ひかり(わかつき ひかり)
小学生。若月奈緒の娘で、母とともに富穰寮で暮らしているが、どちらかというと母よりしっかりしている。
子供にとってはとんでもない生活環境のはずだが、寮生たちと遊んだり宿題を手伝ってもらったりして気楽にやっているようである。


依子さん(よりこさん)
富穰寮で夜中に目覚めると、たまに天井に張りついていたり窓から覗き込んでいたりする血まみれの女性。
朝になると消える。

麒麟様(きりんさま)
富穰寮周辺の森に棲んでいるニホンジカ。
めったに姿を現さないため、寮生の間では、お姿を顕すと吉兆だとされている。

玄武様(げんぶさま)
富穰寮周辺に棲んでいるガラパゴスゾウガメ。
たまに室内にも上がり込む。

白虎様(びゃっこさま)
富穰寮に棲んでいる白の野良猫。
たまにネズミやモグラを捕ってきて寮生に恵んであげる優しい性格。

青龍様(せいりゅうさま)
富穰寮裏の池に棲んでいるピラルク。
わりとワイルドな性格で、池の小さな魚だけでなく、周囲に来た鳥もバクッと食べたりする。

朱雀様(すざくさま)
富穰寮周辺に棲んでいるニワトリ。
異常な高齢になっても毎日タマゴを産み続け、寮生に良質なタンパク質を提供する優しい性格。


変人大学生たちのたくましい日常と、ちょっと他に類を見ない形で迫る人類の危機をお楽しみください。

新刊発売!&イベントのお知らせ

2019年05月24日 11:29



新刊『育休刑事』が発売です。
主人公は捜査一課で男性初の長期育児休業を取得した秋月刑事。
育児に専念するはずが、「育児経験を活かして手伝え」と係長から呼び出されて結局仕事……。
「男性の育児」ならではのあれこれを描いた育児ネタ満載の本ですが、
赤ちゃん(3ヶ月→7ヶ月。作中で成長する)の世話をしつつ犯罪捜査する異色警察小説でもあります。
育児がどんなものか知りたい方には参考書に、
今まさに育児真っ最中の方には応援歌に、
育児を終えた方にはあの頃の慌ただしさを思い出すアルバムに。
そして単に面白い小説を読みたい方には楽しいエンターテイメントとして!
よろしくお願いいたします。


そして、『育休刑事』の発売を記念して、
JR秋葉原駅前の書泉ブックタワーさんにて6月1日午後1時から、
トークショー&サイン会のイベントがあります。
ゲストは似鳥と同じく育児奮闘中の飛鳥井千砂先生です。
ご予約はこちらから!
ご来場、お待ちしております。












アンダルシアの知らない住所

2018年12月25日 03:21

 なるほどこれが「気品」というやつなのかなと、私は思った。言葉としては知っていても、実際にそのものを目にすることはなかなかない単語だ。
 ポットから2つのカップに紅茶を注ぐ。当たり前の日常的な動作だが、昴くんのたたずまいにはどこか「気品」があった。なんというか、静かなのだ。決して急がず、慎重にもなりすぎず、自然な丁寧さでゆったり時間をかける仕草。そういえば昴くんは、人の家に入る時には当たり前のようにコートを脱ぐし、ローテーブルからティーカップを取るときはソーサーも持ち上げる。確かに金持ちの一族だが、そうした性質は彼にしかなかった。時間というリソースを贅沢に使うかのような、優雅さのあるそういう仕草は、確かに「気品」といってよいものだった。
 だとすれば、と思い、暖炉のぬくもりで満ちた部屋を見回す。このマホガニーの机も、オールドキリムの絨毯も結局、最もふさわしい人物のところに残ったわけだ。勝手なことだが、ほっとした。あの連中が相続していたらあっという間に売り飛ばされるか、邸内の金目のものはドアノブまで引っぺがされ、建物は悪趣味なホテルにでも改装されるところだっただろう。
「お待たせしました」昴くんがカップを置く。
「ありがとう」
 そうは言っても猫舌である。とりあえずは心地良いヌワラエリアの香りを楽しむだけにして室内を見回す。「綺麗にしてあるね。掃除、大変だろうに。誰か雇ったの?」
「いえ、自分でできる限り。……大学、もう冬休みに入りましたから、しばらくここに住みます」
「そりゃいい。お祖父さんも、話し相手に残ったのが君で喜んでいるだろう」ようやくヌワラエリアを飲める。「生前、元気な頃から、あの人の世間話に登場するのは君ばかりだったしね」
「趣味が合ったんですね。というより、じいちゃんが僕に色々、面白いことを教えてくれたんです。そういえば星を見始めたのも、爺ちゃんが昔、古い望遠鏡を覗かせてくれたからでした」青年は微笑む。「あの望遠鏡、どこ行ったんだろう。あれだけは欲しかったな」
 本心なのだろうなと思う。4ヶ月ほど前に亡くなった彼の祖父は資産家だったが、押し寄せた親戚連中はすぐに金になる株や有価証券に殺到し、管理の面倒なこの家は事実上彼に押しつけられたような形だったらしい。祖父の意向を汲み取るなら本来もっと請求していいはずの彼は特に何も言わず、喜んでこの家を引き取った。そういう無欲なところもまた、祖父を安心させたのかもしれない。
「天体観測はまだしてるの?」
「はい。ここは街の光がないし、それもいいんです。しぶんぎ座流星群のピークまではいようかな、って」
「なるほど。そりゃいい」
 窓の外を見る。葉の落ちた針葉樹の林のむこうに市道が走っているのがかすかに見えるが、通る車はほとんどなかった。
「……で。そういえば『訊きたいこともある』って言ってたよね」
「はい。……ついで、なんですが」昴くんは座り直し、こちらをまっすぐに見た。「じいちゃん、スペイン方面に知り合いはいなかったでしょうか?」
「電話でもそう言ってたけど、どうしてスペインなんだい? お祖父さんは生前、ほとんど海外旅行には行かない人だった。スペインに行ったことはなかったはずだし、そもそもヨーロッパ方面に個人的なつきあいのある人間はいなかったと思うよ」
「そうですか……」昴くんは思案顔になる。「おそらく、グラナダなんです。アンダルシア地方の」
「ますますないな。仕事関連だとしたら、あるとしてもバルセロナかマドリードだよ」
 昴くんは思案顔になったが、私に何も教えないまま自分だけで考え込んでいる、という状態に気付いたのだろう。すぐに話を始めてくれた。
「祖父が生前、スペインに荷物を送っていたんですが、その相手の連絡先が知りたいんです。祖父が亡くなったことも伝えなきゃいけないし」昴くんは傍らの籠に盛られたクッキーを「どうぞ」と勧めてくれる。「6月のことでしたから今から半年前。亡くなる2ヶ月くらい前……ですね。その頃はもうほとんど一日中、ベッドに寝たきりだった祖父が、僕が部屋を訪ねた時、珍しく机に座っていたんです。トイレに行くのも大仕事、っていう状態だったので、『大丈夫?』って訊いたんですが、祖父は『大丈夫。これだけは死ぬ前にやっちまわないといけないんだ』と言っていました」
 となると、相当重要な用件だったのだろう。私は頷いて先を促す。
「僕は『もう終わるから、五分したら葉月さんを』──ああ、お手伝いさんですけど、『葉月さんをこの部屋に呼んでくれ』って頼まれました。他に手伝うことはないかと訊いたら首を振るので、すぐ部屋を出たんですけど……。祖父はどうも、荷物の伝票を書いていたようなんです。国際便の。送り先はよく見えなかったんですけど、どうやらスペイン語だったようで」
 ようやく合点がいった。私はクッキーの包みを一つ取る。「それがグラナダか。詳しい番地は分からなかったの?」
「そこまでは見ていなかったので」昴くんもクッキーを取ったが、包みを開ける様子はない。「あとで葉月さんにも訊いたんですが、彼女も送り先は覚えていないそうです。ただ発送を頼まれただけだったようで」
「荷物って、どんな物だったの?」
「葉月さんによれば、けっこう大きな箱だったそうです。このくらいの」昴くんは両手を肩幅くらいに広げてみせた。「重さもそれなりにあった、とのことでした。……気になったので親戚にも訊いてみたんですけど、誰も心当たりがないらしくて」
 私はクッキーを半分囓った。シナモンの香りが口の中に広がる。
 なるほど、確かに気になる話だった。この子の祖父は病で亡くなったわけだが、亡くなる2ヶ月前となると、もうかなり弱っていただろう。その体をおしてまで、自らの手で荷物を発送した。当時出入りしていた大勢の親戚が誰もそのことを知らなかったとなると、秘密の荷物だったということになりそうだ。だが恋文にしては大きすぎる。そして「これだけは死ぬ前にやっておきたい」と言っていたなら、かなり重要な荷物だったはずだ。
 やや温くなったヌワラエリアで、口に残るシナモンの香気を流す。
 荷物の発送時、この子の祖父は間違いなく自分の死期を予測していた。それゆえに送ったのだろう。となると隠し財産か、と考えたくなるが、そうなると今度はスペインに送った、というのが分からなくなる。国内を避けたとしても、アメリカや東南アジア各国なら、公私ともにつきあいがあったはずだ。協力者ならそちらで探せばいい。それなのに、友人も知人もいなかったはずのスペインに、なぜ。
「……海外、あるいは国内でもいいんだけど、現在スペインに移り住んでる友達でもいたのかな」
「僕もそれを考えたんですけど」昴くんはテーブルの上で手を組んだ。「そもそも爺ちゃんのところに、友達とかから手紙や電話が来ること自体、ほとんどなかったそうです。少なくともここ10年は。それに爺ちゃんの友達の誰かがスペインに引っ越したなら、その連絡が来ておかしくないですよね。爺ちゃんはメールもやらなかったから、手紙か電話で。そういうの、ぜんぜんなかったんです」
 なるほど奇妙な話だった。昴くんが私に助けを求めてくるわけだ。
 だが正直なところ、私にもまったく見当がつかなかった。全く知り合いのいないはずの土地に何を、何のために送ったのか。伝票はしっかり書けていたのだから耄碌していたわけでもあるまい。自分の死期を悟った後、これだけは、と送り出した大きな荷物。一体誰に宛てたのだろう。
「……まいったな。さっぱり分からない」
 昴くんは私のその言葉を聞いて、かすかに目を伏せた。露骨に残念がるというわけではないが、期待はしてくれていたらしい。
「まあ、私がまだ知らないつきあいがあるかもしれないから、少し調べてみるよ。それに時間が解決してくれるかもしれない。亡くなって何年もしてから突然個人に来客があって、『あの人にこんなつきあいがあったなんて』って家族が驚くケースなんか、けっこうあるから」
 私を呼んだのがそれだけのためではないとはいえ、この大人しい青年のいくばくかの期待に答えられなかった、というのはなかなかに悔しい。だが、分からないことはどうしようもない。私は話題を変えることにした。「それで昴くん、この家をこれからどうするか、計画はある? 大学はここからじゃ通えないよね。人が住んでいないと家はすぐ荒れるし、固定資産税だけでもけっこうかかるから、誰かに貸すのが一番だと思うけど……」
「はい。なので今、不動産屋さんに相談してるんです」昴くんは答えた。「店舗でもアトリエでも居住用でも。とりあえず大枠で保存してくれる人なら、格安で貸し出すつもりで。その間に、この家を活かしたビジネスを考えてくれる人を探そうかなって」
 なかなかしっかりしている。「それはよかった。たいしたもんだ」
「半月前に20歳になりましたから」昴くんは微笑んだ。
「そうか。大学生なんだもんな、もう」
 そう。もうそんな歳なのだ。私の脳裏に、少年の頃の昴くんが浮かぶ。ほっそりして大人しく、「深窓の令嬢」を男にしたらこんな感じ、という雰囲気の少年だったが……。
 不意にその回想が断ち切られた。
「そうか」
 思わず立ち上がりそうになり、テーブルの縁に腿がぶつかる。
 もの問いたげに眉を上げる昴くんに、私は言った。
「分かったよ。お祖父さんが誰に、何のために荷物を送ったのか。それにたぶん、その荷物の中身も」
 昴くんは目を見開いた。「本当ですか」
「ああ」私は頷いた。「問い合わせてもいいけど……たぶん、もうすぐ分かるよ。待っていれば」





「あの」昴くんも驚いているようだったが、私のように立ち上がってはいなかった。「教えていただけますか、それ」
「もちろんだ」
 私は座り直した。考えてみれば、たいした謎ではなかったのだ。送り先はスペインだというヒントもあったのに、気付かない方が迂闊だったとすら言える。
 昴くんも椅子に深くかけ直したようだ。私は迷わずに口を開いた。
「まず、おそらく確実なのが、お祖父さんがその荷物を発送したのは、ご自分の死期を悟ったからだ。そして葉月さんにしか手伝わせなかったのは、親戚たちにそのことを知られたくなかったから」
 昴くんは頷いた。そしてひと呼吸置いてから言った。「……つまり、相続関係」
「そう。お祖父さんは、その品物を親戚に相続されたくなかったんだ。まあ私の親戚でもあるから言わせてもらうが、彼らがそれを手に入れても価値が分からず捨てるか、せいぜい売り払っていくらかの金に換えて終わりだろう。お祖父さんはそれがどうしても嫌で、親戚たちからその品物を『隠す』ために発送した」
「隠す……」昴くんは一度カップに視線を落とし、それからまた私を見た。「でも、スペインに知り合いはいない、という前提で考えていいんですよね? 隠してくれる協力者がいたとは……」
 なかなか賢いな、と思う。確かに私が何か、スペインの心当たりを思い出したなら、それをまず昴くんに話しているはずだった。それすらせずに分かったということはつまり、故人にはやはりスペインに知人はおらず、それなのに私には解答が分かった、ということになる。
「その通りだよ」私は頷いてみせた。「お祖父さんはスペインにいる知人に宛てて荷物を送ったんじゃない。というより、誰にも宛てていないんだ」
「誰にも……?」
「そう。お祖父さんが宛先に書いたグラナダの住所にはおそらく誰も住んでいない。それどころか、その住所そのものがそもそも存在していないだろうね」
「……架空の住所に送ったんですか? どうして」
 私はカップに指を置く。「架空の住所に宛てて荷物を送ると、その荷物はどうなると思う?」
「それはもちろん、宛所不明、っていう扱いになって……」
 そこまで言って、昴くんも気付いたらしい。あ、と小さく声をあげた。
 私は頷いた。「そう。宛所不明になって荷物は戻ってくる。それこそが目的だったんだ。つまりお祖父さんは、自分宛に荷物を発送した」
「……つまり、自分が死んだ後、この家に届くように?」昴くんはそう言ったが、自分の言ったことを自分で検討する様子になって小声で呟く。「でも、すぐに戻ってきたら……」
「そうならないようにしたのさ。だからスペインなんだ」
 私は言った。うろ覚えな部分はあるが、大枠では間違っていないはずだ。
「おそらくお祖父さんは、その荷物を船便でスペインに送ったんだ。地球の反対側だからね。むこうに届くまでは三ヶ月くらいかかるだろう」
 現在、日本からの国際小包を扱っている国の中で最も配達に時間がかかるのが、スペインと南米各国、それにトルコだったはずだ。つまり宛先はトルコや南米でもよかったはずなのだが、郵便事情を考えるとスペインが一番、安全確実に届くと判断したのだろう。
「そしてスペインの郵便機関がグラナダのその住所を探し、宛所不明扱いで日本の発送者に送り返す。となるとまあ、戻ってくるまでに半年はかかるよね。つまりこの手を使えば、半年後の自分に宛てて荷物を送れるんだ」
「それって、つまり……」
「そう。おそらくお祖父さんは、半年後には自分は生きていないだろうと予測していた。そして半年後ならあらかた相続のごたごたも済み、荷物はこの家に残っている人に……おそらくは君に届いてくれるだろう、と」
 事実そうなった。他の親戚たちがすぐ金になるものに殺到する中、この昴くんだけが、この家に残ってくれた。
「つまり君のお祖父さんは、君に向けて荷物を送ったのさ。相続のごたごたがあらかた済んで、しかも君が20歳に……成人になって、自分の財産を自分で管理できる権利を得た頃に、ひっそりとそれが届くように。そうでないと親戚の誰かが、君に代わってそれをお金に換えてしまうかもしれないから」
 子供の所有する財産を相当額で売る行為は、未成年に対する親の財産管理権として認められることが多い。だがそれをされてしまっては、贈った意味がなかったのだ。少なくともこの子の祖父にとっては。
 昴くんの手がテーブルの上でぎゅっと握られている。「……それって、一体何ですか。じいちゃんは僕に何を」
 私は答えた。「君だけがその価値を分かってくれるもの、だろうね」
 その時ちょうど、玄関のインターフォンが鳴った。鳴らしたのは宅配便の配達人であり、荷物を受け取った昴くんは目を丸くした。確かに、祖父が発送したあの荷物だったのだ。
 荷物は厳重に梱包されていた。確かにスペイン語で"Dirección desconocida(宛所不明)"というスタンプが押されている。
 昴くんと協力して梱包を解いた。中からまず出てきたのは、短い手紙だった。

昴へ
君がまだ10歳の頃にした約束を覚えているかい。おじいちゃんが死んだら、君にこれをあげる。君はあの時、「死なないで」と言ってくれたけど、残念ながら人は必ず死ぬんだ。
だけど人は死ぬ前に、残る人たちに色々なものを教えることができる。
夜空の星を見る楽しさも、その一つだ。古いものだけど、手入れはちゃんとしているはずだ。よければ使ってみてほしい。運がよければ、10年前の君が言っていたように、まだ誰も知らなかった小惑星を見つけられるかもしれない。君は「もし見つけたらおじいちゃんの名前をつける」と言ってくれたね。だけど、おじいちゃんは君の名前をつけてほしいな。
でも、もし2つ目が見つかったら、その時はおじいちゃんの名前をつけてくれたら嬉しいな。
                      祖父より

「……ニコンのED、10センチ」荷物の中身を見た昴くんが、震える声で呟いた。「ずっと昔に生産終了したものです。今はたしかに、骨董品として値段が上がってるけど……」
 箱の中には、年季の入った天体望遠鏡が入っていた。
「……じいちゃん、ありがとう」
 昴くんは目元を拭い、天体望遠鏡に語りかけるように言った。
「この家、星がよく見えるよ」

ホラーのショートショートです

2018年12月08日 00:39






新刊が出ました。なんとホラーのショートショート集です。
「見てはいけないもの」にまつわる13の怖い話。
もともとホラーは好きだったのですが、
純粋に文章で怖がらせるホラーというのはあまりない気がして、
自分で書いてみました。
真夜中の高架下。
小窓のついたエレベーター。
細く開いた襖。
そういう怖さのホラーです。

そしてこの表紙、なんとげみさんです。
げみさんの初ホラー絵。ラフをもらった時から超怖いと評判でした。
ぜひお手に取ってくださいませ。

ちなみに河出書房新社さんが作ってくれたPVがこちら。怖い!
史上初、げみさんの絵がちょっとだけ動きます。


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