買い占めは有効か?

2012年03月31日 18:47

震災時、被災地外では、米などの買い占めが問題になりました。

私の住む千葉でも米やパンが店頭から姿を消したり、色々あったのですが。

 

前から疑問に思っていたのです。買い占めって本当に得なんでしょうか。

 

ひと口に買い占めと言っても色々なケースが想定されます。

ダイエットになると宣伝されてトマトがなくなる、というだけのケースから、

食糧が完全に枯渇して生存にかかわる、というケースまで、

買い占めが発生する状況は深刻さのレベルがピンからキリまで考えられます。

ですが、まずはとりあえず一番深刻な

「あらゆる食糧が一斉に枯渇して全国民が飢える」

という状況を想定します(こんな状況は現実にはありえませんが)。

この状況において、お店に残っている食糧を買い占めるのは本当に有効なのか?

品性とか善悪とかいった問題はとりあえず措いておいて、

単純に生存戦略として考えてみると、どうも疑問符がつくのです。

つまり。

 

食料がなくなる、という噂が流れます。

店頭にはまだ米などがありますが、次に入荷する保証はありません。

そこでAさんは、大急ぎで近所のスーパーに行き、

ありったけの食糧を買い占めて家に帰りました。

Aさんの予想通り、後日、新たな食糧は店頭から姿を消し、皆が飢え始めました。

他の人たちは、食糧を求めてあちこちに出かけるようになりました。

……となると。

 

当然のことながら、Aさんはまわりじゅうから狙われます。

「あいつの家には米がある!」「あいつがこのあたりの食い物を買い占めている!」

噂が広がってAさん宅に殺気立った掠奪者が殺到するまで、何日もかかりません。

(現実には「近所の何人かが強盗に入る」という形でしょうが。)

掠奪者はAさん宅の食糧を根こそぎ持っていき、Aさんはせっかく買い占めた食糧を失います。

 

さて、ここまでならプラスマイナスゼロです。

むしろ、買い占めてから略奪されるまでの間飢えなかった分、プラスでしょう。

ですが、現実にはこんなにうまくいきません。

なんせ相手は「殺気立った掠奪者」です。

掠奪者なら、Aさんが買い占めた食糧だけを奪って行儀よく退散してくれるはずがなく、

Aさんはもともと持っていた衣類や燃料などの財も、根こそぎ奪われることになります。

抵抗すれば殺されるでしょうし、抵抗しなくてもうさ晴らしに殺されるかもしれません。

(おなかが減った人はイライラするのです。)

かなりの確率で殺される前に強姦されるでしょうし、家には火をつけられるでしょう。

(暴徒は破壊し終わった場所に火をつけたがるのです。)

こんなふうになるのは、周囲の人間が飢えて殺気立っていることに加え、

Aさんが「みんなが危機的な状況において、自分だけ助かろうとした奴」と

見られているからです。「こんな奴には何をしてもいい」と思われます。

Aさんの家族も「こんな奴の家族には何をしてもいい」とばかりに惨殺されるでしょう。

 

では、それを避けるにはどうすればいいか。

「財(食糧)があるのだから、用心棒を雇う」?

無理です。用心棒があっという間に掠奪者に変身します。

「買い占めたことがばれないように、食糧を隠す」。

これも無理です。買い占める姿は絶対に見られますし、

本当に危機的な状況になったら、近所の人間は匂いや気配で、

あそこはまだ食糧を溜めこんでいるのではないか、と気付きます。

「人のいない田舎に隠れ家を作り、全速力でそこに逃げる」。

これは理屈からいえば有効ですが、現実的ではありません。

まず、現代日本にそんな場所があるでしょうか。

隠れ家は「周囲に人が全くいないけど、生活はできる」場所でなくてはなりません。

さらに、そんな場所がもし見つかったとしても、

隠れ家までどうやって移動するか、という問題があります。

長期間飢えないだけの物資を満載して、

誰にも不審に思われずに隠れ家まで行けるものでしょうか。

(当然、運搬する物資を小分けすればするほど往復する回数が増えてしまいます。)

また、運よく隠れ家に辿り着いたとして、そこからの生活が大変です。

ひと1人が完全に隠れ、匂いもゴミも足跡も残さずに生活するのは困難です。

また、他人との関わりを完全に断って生活を続けるというのも困難です。

なにしろ周囲の人間はすべて敵。クマ園に投げ込まれた豚状態です。

いつ見つかるのか、と人の気配に怯えながらの暮らしで精神がもつでしょうか。

そう考えると、どうも「買い占め脱出作戦」も無理なようです。

 

というわけで、買い占めが生死を分けるような究極的な状況においては、

買い占めは無駄どころかむしろリスクを上げてしまうことになります。

 

では、そこまで深刻でない状況なら?

たとえば、なくなるのが「食糧」ではなく「トイレットペーパー」なら?


これなら、襲われてまで奪われる可能性は小さくなります。

ですが、襲われないかわりに「差し出せ」と強制されるでしょう。

また現実には、トイレットペーパーがなくてもいいような工夫をみんなが始めるので、

(実際、もしトイレットペーパーがなくなっても、フィンガーウォッシュレットをやるとか、
トイレまでシャワーヘッドを延ばすとか、いくらでも手があるわけです)

「無きゃ無いで、たいして困らない」状況になるでしょう。

ただ単に、買い占めた人がまわりから睨まれるだけです。

 

結局のところ、ある人が物資を買い占めることで得をすればするほど、

それに比例して「周囲から奪われる可能性」と「奪われた時の被害」も増えます。

一方、リスクが少ないケースでは、買い占めはたいして得になりません。

つまりリスクとリターンは、ちゃんとバランスがとれるようにできているわけです。

また、現実には、買い占めが発生するような状況では、

欠乏以外の何かの危険が存在しているのが通常であり、

買い占めによるリスクの中には、

「まわりから睨まれ、誰からも助けてもらえなくなる」不利益も、

計算に入れなければならないでしょう。

そう考えると、非常時の買い占めという行為にはどうも、

有効性という観点から疑問符がつくわけです。

 

とはいえ、これは頭の中で考えた話。

現実には、どんな物資が欠乏しても、人は代替物を見つけたり、作ったり、

あるいはその物資なしで生活する方法を考えたりするもので、

それほど困るようなことにはならないでしょう。

一方、もし戦争や疫病や自然災害が重なって「困るほどの欠乏」が訪れたなら、

その時には「欠乏」以上の差し迫った脅威があるのが普通ですし、

そもそも買い占めるだけの物資が市場からなくなっているはず。

ですから、こんな話に意味があるわけではないのですが。

 

そういえば震災後、パンが店頭から姿を消した時でも、ケーキは残っていました。

現代日本では、パンがなければケーキを食べればいいようです。

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