4人目は忘れられた

2012年05月17日 14:54

現在執筆中の原稿に「さるかに合戦」のことが少し出てきます。

「さるかに合戦」はいわずと知れた日本の民話ですが、

私が知っているのは、

「蟹が柿の木を育てたけど、悪い猿が「実をとってやる」と言っておきながら

青い実を蟹にぶつけていじめたため、臼・栗・蜂が猿をこらしめました」

という程度なので、どんな話なのかちゃんと調べよう、と思いました。

 

ですが。調べてみたら、これがまた。

 

蟹がおにぎりを持って歩いていると、

ずる賢い猿がそこらで拾った柿の種と交換しようと言ってきた。

蟹は最初は嫌がったが、種を植えれば成長して柿がたくさんなって

ずっと得をすると猿が言ったので、蟹はおにぎりとその柿の種を交換した。

蟹はさっそく家に帰って「早く芽を出せ柿の種、出さなきゃ鋏でちょん切るぞ」と

歌いながらその種を植えるといっきに成長して柿がたくさんなった。

 

ふむふむ。そういえば、蟹が歌を歌うシーンがありました。
蟹がおにぎりとか柿とかを食べるんだろうか、という点は、
民話なのでまあいいでしょう。

 

そこへ猿がやって来て

柿が取れない蟹の代わりに自分が取ってあげようと木に登ったが、

ずる賢い猿は自分が食べるだけで蟹には全然やらない。

蟹が早くくれと言うと猿は青くて硬い柿の実を蟹に投げつけ、

蟹はそのショックで子供を産むと死んでしまった。

 

卵胎生の蟹のようで。

……いや、それより、蟹って死んじゃうんですね。

絵本なんかでは「怪我をした」となっていますが、

そこは子供向けだからといって勝手に話を改変する、絵本お得意の毒抜き芸でしょう。

「そのショックで子供を産むと死んでしまった」という文からリアルに想像すると、

割れた蟹の腹からぞろぞろ子蟹が這い出てくるというグロい絵になってしまうわけで、

これは確かに、ちびっ子にはちょっときついかもしれません。

さて、物語はここからいよいよクライマックスです。

 

その子供の蟹達は親の敵を討とうと栗と臼と蜂と牛糞と共に猿を家に呼び寄せた。

 

そうそう。臼と栗と蜂と。

 

……?

 

その子供の蟹達は親の敵を討とうと栗と臼と蜂と牛糞と共に猿を家に呼び寄せた。

 

 

……。

 

……「牛糞」?

 

一瞬、見間違えかと思いました。

ですが、様々なサイトや実物の絵本を見ても、確かに参戦しているのです。「牛糞」が。

いや、民話ですし、ファンタジーですし、猿と蟹も会話してることですし、

栗と蜂どころか、臼までが蟹の仇討ちを手伝っているのですから。


……でも、「牛糞」?


当然という顔で参戦しちゃってますが、お前ちょっと違わない?

想像してみます。仇討ちを計画する蟹の子供たち。

そこに声をかける栗。「話は聞いた。拙者も助太刀いたそう!」

蜂。「確かにその猿の野郎許せねえな。よし、俺も手伝うぜ!」

臼。「オマエタチ、リッパ。オレモ、カタキ、テツダウ」

牛糞。「最初から猿は、君達のお母さんに柿を育てさせて、

実だけ横取りするつもりだったというわけか……。

アメリカ刑法に当てはめても『謀殺』――第一級殺人に該当する。

死刑または保釈の可能性のない終身刑、といったところだが、

あいにく猿相手じゃ警察には頼れない。僕たちの手で、ヤツに然るべき報いを!」

 

よく喋る牛糞ですね。

それにしても、当然という顔で蟹に話しかける「牛糞」というのは、

あまりにシュールで絵が浮かんできません。

しかし民話の「さるかに合戦」は、

牛糞の存在に一片の疑問もさしはさむことなく進行してゆきます。

 

栗は囲炉裏の中に隠れ、蜂は水桶の中に隠れ、牛糞は土間に隠れ、臼は屋根に隠れた。

 

……土間に身を隠して物陰から様子をうかがう「牛糞」……。

 

そして猿が家に戻って来て囲炉裏で身体を暖めようとすると

栗が体当たりをして猿は火傷をおい、急いで水で冷やそうとしたら蜂に刺され、

吃驚して家から逃げようとしたら牛糞に滑り、

屋根から臼が落ちてきて猿は潰れて死に見事子供の蟹達は親の敵を討てた。

 

……牛糞、大活躍。

なんと、文字通り体を張って猿を転ばせ、

臼にとどめのボディプレスを見舞うチャンスを作るという、

ある意味最も重要なポジションです。

どちらかというと蜂の方が要らない感じです。

(ちなみに、はじけて体当たりするためだけに火中に身を投じた栗もなかなかの根性です。)

 

これだけ活躍している牛糞ですが、

現代の絵本では存在そのものがカットされてしまっており、

臼は飛び出してきた猿の上に絶妙なタイミングで落下することになっています。

ですが、もの書きのはしくれとして言わせていただくと、

これはちょっと、うまい話とは言えません。

せっかく出てきた蜂と栗の存在意義が薄れてしまう上、

駆け出てくる猿の上に臼がうまく落下できるのも出来すぎです。

そもそも臼が落下してとどめを刺すつもりなら、

単に戸口の上で猿が来るのを待っていればよく、

栗や鉢が猿を駆け出させるのはむしろ逆効果になってしまいます。

私も子供心に「そんなにうまく命中するの?」

「栗と蜂っていらないじゃん。臼だけでいいじゃん」と思っていました。

牛糞の存在が、その疑問を見事に解消してくれたわけです。

子供向けだからといって変にカットしたりするからこういうことになるんです。

……でも、牛糞が当然のように仲間になるシュールさと比べると、どうでしょう……。


……あれ? それで、蟹の子供たちは何してたの?

 



 

※文中の「さるかに合戦」はWikipediaからの引用です。
 話のヴァリエーションによっては、蟹の子供たちも鋏でちゃんと攻撃します。

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