玄関先にて

2015年12月24日 18:50

 十数年ぶりに小塚さん宅を訪ねたのだが、小塚さんは以前と変わらぬ明るさで出迎えて
くれた。

「いやいやいきなりお訪ねして申し訳ない。近くまで来たものですから」

「いいえ、すっかりご無沙汰して。何年ぶりでしょうねえ。ほら杏、菊田さんに挨拶しな
さい」

 小塚さんの後ろからは杏ちゃんも顔を覗かせていたが、彼女は私を見るなりぷいと背を
向けてリビングに戻ってしまった。

 小塚さんが困り顔になる。「こら、もう。……すみませんねえ。うちの子、ぜんぜん愛
想がなくて」

「いえいえ。どこもそんなもんですよ」女の子だからかもしれない。「でも杏ちゃん、大
きくなりましたねえ。前に見た時はこんな小さかったのに」

 小塚さんはええ、ええ、と頷く。「もう図体ばっかり大きくなって。どんどんものぐさ
になるんですよ。ゴロゴロしてばっかり」

「でも玄関まで顔出してくれるだけでもいいですよ。うちの娘よりずっとマシ。うちのな
んか、来客があると逃げるように
2階に行くだけですから」

「お腹が空いたんじゃないかしら。『ママお腹空いた』だけはきっちり言うんだから」

 それはうちの娘もそうだなと思う。おかげで最近、顎のあたりが大変丸くなっている。
13歳でしたっけ? もうそういう年頃でしょう。子供の時とは違いますよ」

「今年14です。ほんとにねえ」

14歳かあ。お母さんとしては、いろいろ心配ごとも増えてきますね」

「そうなのよ。それにね最近は、角のところに陸くんっているでしょう。その子が最近、
じーっと見てるの。杏を連れて通ると。私が挨拶しても無視するくせに」小塚さんは杏ちゃ
んのいるリビングを振り返る。「うちの子、
14よ? 分かってるのかしら」

 陸くんは来る時に私も見た。これは苦笑するしかない。「うーん、まあ……ストライク
ゾーンはそれぞれですから。……変なことはないんでしょう?」

「ないわよう。でもあの子のどこがいいのかしらね。最近ますます私に似て、ふてぶてし
い顔になってきたのに」

「いやいや。杏ちゃん美人ですよ。確かに、似てきた感じはしますねえ」

「あの子ももっと身綺麗にしてればいいのにねえ。自分がどう見えるのかなんてぜんぜん
意識しないんですよ。お風呂も月に
1回がやっと」

「はは。気にならないんでしょうねえ、本人は」

「この間背中を嗅いでみたら『あっ、犬のにおいだ!』って思って」

「犬本人としてはそれが自然なのかもしれませんよ。柴犬の14歳って言ったら、人間だと
723歳だそうですね。もう、いろいろと億劫なのかも」

 話していると、さっきはすぐ逃げてしまった杏ちゃんがまた出てきて、今度は私の手を
ぺろりと舐めた。前に見た時はほんの子犬だったが、確かに今ではなんとなく小塚さんに
似ている。犬は飼い主に似る、というのは経験上本当のようだ。しかし角の陸くんは確か
セントバーナードだった。セントバーナードにとって柴犬は魅力的なのだろうか。

 杏ちゃんを抱き上げて首筋に顔をうずめると、確かに犬のにおいがした。

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