ラブレターには鉛筆を

2011年10月05日 21:59

職業病というほどたいしたものではないのですが、仕事柄日本語の間違いが気になり、

広告とかネットの文章を読んだ時に、

「『だが』が1文で2つ続いてる!」とか

「さっきは『である。』つってたのにいきなり『です。』になってる!」とか

あら探しをしてしまうことがあります(ただ性格悪いだけかも)。

私ですらこうだということを考えると、

それを専門にしている校正者なんかはもっとひどいのではないかと想像します。

校正さんたちはたぶん日常的に、

雑誌とか広告の文章に間違いを見つけて反射的に鉛筆を探してしまったり、

テレビの字幕にミスを見つけて反射的に画面に書き込みをしようとしたり、

絶対音感のある人が「雨の音と水槽のポンプの音が不協和音で気持ち悪い!」と

言って苦しむ、みたいな状態になっているのではないでしょうか。

 

そう考えると、たとえばラブレターを送った相手が校正者だったりした人は、

送ったラブレターにエンピツが入って返ってくる可能性があります。

実際はそこまでじゃない気がしますが、

心の中でエンピツつけながら読まれることになると思うのです。
惚れた相手が校正をやっている、という人には、ラブレターはお勧めできません。

 

では編集者ならいいのかというと、

もっとひどいことになるのではないではないでしょうか。

編集者にラブレターを送った人は、到着後に電話を受けることになります。

「もしもしお世話になっております。白鵬社の韮沢と申します」

「あっ、うわ、どうも」

こちらは電話で返事がくると思っていなかったのでうろたえます。

「いまお電話よろしいでしょうか?」

「あっ、はい」

もう返事が、と思ってうろたえます。しかし。

「お手紙、届きました。大変楽しく読ませていただきました」

「あっ、いえ……ありがとうございます。いきなりすいません」

「それでですね、このままでも大丈夫だとは思うのですが」

「……はい」

「2、3、気になる点がありましたのでよろしいでしょうか?」

「あっ、すいません。何でしょうか?」

「まずですね、冒頭で、長文で恋心を吐露している場面がありますが」

「はい……」

「これがですね、いきなりですと読者がついていけないおそれがあると思うんです。
ですから今の半分くらいの分量に削ってはいかがでしょうか」

「……はい」

「それからですね、お手紙にコンサートのチケットが同封されていますが」

「あっ、それ、もしよろしければ御一緒に、と」

「いえ、それはいいんですが、ちょっと形式的にこれは難しいかな、と思うんです」

「すいません。いきなり失礼いたしました」

「いえ失礼ということではなくてですね、チケット本体をそのまま添付する、と

いうことになりますと、どういう形になるかがちょっと難しいんです。

本物そっくりをそのまま、というのは白鵬社ノベルスの体裁上難しいのですが、

かといってチケットの図版だけを載せる、ということになりますと、

あまり意味がないというか、それでしたら本文中に図で載せてしまった方が

いいかな、と思うんです。なのでここはできたら変更、ということに」

「はあ」

「それとですね、ラストなんですが、『~であれば嬉しいです』という

希望の形で終わっているんですね。これですと少し、読者のカタルシスがないかと」

「……はあ」

「この展開ですと、結末をきちんと書いた方が読後感がすっきりすると思うんです。

ですので、主人公が告白してどうなったかという事実関係をですね、

たとえば後日談といった形でエピローグに入れるとか、そういったことを」

「……はあ?」

「それとこれは現段階で決めなくてもいいのですが、巻末をどうしますか?

解説をお願いしたい方などいらっしゃいますか?」

「解説っ? いえっ、いいですそんなの」

「あ、そうですよね。私もこの話であれば、かえって難しそうな解説など

つけない方がいいんじゃないかと思うんです。

でしたらどうしましょうか。たぶん現段階で256頁……台数ちょうどなので、

直しの分を計算しても78頁は空きができると思うんですが。

御自分であとがきなど、書いていただけますでしょうか?」

「あとがき……」

「それと、これは少し気が早いですが、装丁の画家さんなどに御希望はありますか?

この方でどうでしょう、という私のイメージをいくつかダウンロードしてありますので、

この後メールでお送りしますね」

「……はい」

「それで刊行時期ですが、今のところ2月を予定しております。

ただ、場合によっては1月にできるかもしれません。

直しを今月中にお送りいただければなんとか……といったところなのですが」

「……がんばります」

「今月中にお送りいただけましたら、

なんとか初校ゲラを11月中にお戻しできるかと思いますので」

「……よろしくお願いします」

で、このラブレターは、売れ行きがよければ数年後に文庫化されます。

 

 

もちろん現実には、こんなことにはなりません。

最初の原稿を送り、これから直しが入る、という状態なのに、

もう刊行時期まで予定されていて、

ゲラの時期や装丁の方針まで一気に打ち合わせる、という状況は、

なかなかないと思いますので。

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